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● 時のメロディ番外編『最後のコンサート』 --- 2,突然の来客 ●

 最終バスの営業も終わり、青葉台バスターミナルからバスを回送して、本社まで戻ってきた純一は、一通りの車内点検などを行った後、事務所へと入った。
「あれ? 今日は残業??」
「そうじゃないですよ。たまたまです」
 テレビの前にあるテーブルのところで、松本と高橋が仲よさそうになにやら話しているのが見えた。初めは純一も声をかけるのをためらったが、何も話さないのも気まずいと思って声をかけた。
「2人ともお疲れさん。それにしても、2人とも仲がよさそうじゃない」
「そんなことないですよー」
「本当に、そんな事ないから」
「いや、分かる。独特のオーラみたいなものが見える」
「本当に、そんな事無いですってば」
 照れ隠しするかのように、高橋はすっと立ち上がると、給湯室の方へと歩いていった。
「社長こそ、お疲れ様です。コーヒー淹れますよ」
「悪いね」
 彼女が給湯室に消えると、松本はリモコンでテレビをつけた。
「高橋さんと付き合ってるのか?」
「…まあね」
「よかったじゃん。元々から二人はお似合いだし」
「どうも。っていうかさ、純一と俺に香織さんて、青葉台交通のトップが、そろい踏みだな」
「言われてみればそうだな。俺はまだ、社長という響きに慣れないけど」
 青葉台交通の役員として名が挙がっているのは、社長である純一と、運行部長である松本、そして実質的な事務長である高橋の3人である。社長である純一には『代表取締役』という役職が付き、松本と高橋には『専務取締役』という役職が付いていた。しかしながら、上役といってもほとんど名ばかりで、他の運転手や事務員とともに、運転手などの仕事に従事している。
「東海電気鉄道の傘下とはいえ、一企業の社長だぞ。十分、胸張って歩けるだろ」
「そう言われてもな」
「社長室だかの椅子に威張って座っているような社長じゃなきゃ胸張れないの?」
「そういう理由でもないんだけどな…」
 高橋が3杯のコーヒーを持って戻ってきた。純一と松本はコーヒーを受け取ると、砂糖とミルクを入れてスプーンでかき回した。
「ありがとう。でも、2人でいいムードのところを、邪魔して悪かったな」
「そんな事無いですよ。ほとんど、どうでもいい話しかしてないんですから」
「それよりもさ、純一。お前も、フィアンセと仲良くやってんのか?」
 純一にも、一応付き合っている彼女はいる。しかし、その彼女である石川佐奈は、人気アイドル『朝風ルナ』としてバラエティ番組に出たりと活躍を続けている。マスコミは絶えず彼女を追っているだろうし、恋愛スキャンダルともなれば群がってくるのも必然だった。数ヶ月前に婚約したのだが、それからはなかなかスケジュールとかも合わず、数ヶ月間出会えたのはほぼ数回だけで、2人で外出したのも展望台の方面へ夜にドライブをしただけだ。彼女が常連だったBARへ、も最近は足を運んでいない。
「今、マスコミに騒がれたら彼女にとってマイナスだし、事をあまり荒立てたくないんだ」
「気持ちは分かるんだけどな…」
「それにさ…」
 純一が『朝風ルナ』と初めて会った時は『石川佐奈』とは完全なる別人だと思っていた。それから何度か共演したり、プライベートでも会うことも結構あったが、疑う部分を残しながらも別人だと思っていた。それから、彼女が別人ではなく、本当に『石川佐奈』だったという事実を知るが、今になっても信じられないでいた。それよりも前に、自分のせいで彼女の人生が狂い始めているのではないかという不安が、彼の心にはあった。
「純一はさ…。少し、物事を複雑に考えていないか?」
 我に返って正面を見ると、松本と高橋が心配そうな目でこっちを見ていた。
「そうかもしれない。正直なところを言うとさ、俺は…佐奈、もとい朝風ルナさんを幸せに出来るか、自信がないんだ」
「…今から、そんなに難しく考えてどうするんだ。俺だって結婚するにしても、高橋さんを幸せに絶対できる自信なんてない。それでも、2人で幸せになろうとするものだろう」
「松本の言っていることは分かるんだ。だが、俺にとってはどっちが本当の彼女なのかがわからないんだ。中学当時から普通の女の子だった彼女なのか、今を駆けているアイドル『朝風ルナ』である彼女なのか…」
「…結果として、同一人物なんだろ? だったら、それでいいんじゃないか??」
 純一には訳がわからなくなっていた。どこからどう違うのか、ほとんど曖昧で判断できないのだ。
「そうなんだが…」
「純一が初めて、朝風ルナさんと会ったときには気づいていたのか??」
「いや…。その時には全然気づかなかったよ。本当に別人だと思っていたんだ」
「でも、どうして朝風ルナさんの正体が中学時代の同級生だった石川佐奈さんだと気づいたんだ?」
「彼女が引退会見を開いた1ヵ月後にコンサートがあっただろう。あのコンサートの後にさ、会う約束をしていたんだ。その場所に行ったら、彼女が倒れているのを見つけて病院へと連れて行った。そこで、彼女の本名を知ったんだ」
「…それから、彼女はどう見えていたんだ?」
「面会したのは間違いなく、佐奈だったよ…」
 愛車の前でグッタリしているのを見つけて、純一が病院へ連れて行ったのは間違いなく朝風ルナだった。しかし、呼ばれて案内された診察ベッドに横になっていたのは、朝風ルナと同じ容姿をまとった佐奈だった。
「それからずっとだよ…。テレビとかで朝風ルナを見るたびに、似て非なる2人が浮かぶようになったのはさ…」
「似て非なる2人…。私と親しかった友人には『高橋香織』と『美倉マナ』という2人の自分が見えていたのかな」
 元アイドルという過去を持つ高橋は、現役時代に親しい友人と偶然再会した時、そういう話を聞いたことがあった。後に現役を退いた後、美倉マナ時代の思い出話をする機会はあっても、断片的にしか思い出せないのは兼ね合わせていた別の人格で芸能界にいたからだろうかと、今でも考えることがあった。
「別の人格というか…、仮面を被っているとも言うのかな…。仮面の有無だけで結構変わるから…」
「そうなのか。それが本当だったら、自分の知っている彼女と別人だと思っても、何ら不思議はなさそうだな…」
「俺が言うのもなんだけどな…。朝風ルナという仮面を脱いだ素顔の彼女が本当に純一を求めているなら、その気持ちを純粋な気持ちで受け止めてやるのが、一番勇気がいるけど、絶対必要なことだと思う」
「…」
「…松本君や私がどうのこうの言える立場じゃないけど、もし佐奈さんの気持ちが本当に分かるなら、後は純一君次第だと思うよ」
「…やっぱり、言い出そうと思うと、気が重くなるな」
 コーヒーが入ったカップを手に持ちながら、純一はふとため息をついた。高橋や松本が言っていることは、わからないわけではない。その言葉一つ一つの重さが、純一にのしかかってきていた。
『そんなに、綺麗なことじゃありませんよー』
 何気なしに松本がテレビをつけたが、今まで誰も見てはいなかった。そんなテレビから急に聞き覚えのある声が聞こえてきて、3人は画面に目をやった。
 適当につけていたチャンネルで、この時間に放送されている報道バラエティーか何かの番組の中で、テレビ局の女性アナウンサーと朝風ルナが対談するトークショーが放送されていた。
「テレビに映っている彼女は、間違いなく朝風ルナなんだけどな…」
 純一は、テレビに映っている彼女を『親しい友達』或いは『知り合い』として見る事は原則としてしなかった。もし、知り合いが出ているという気持ちでテレビを見ていたとすれば、きっと落ち着いて見ることは出来ないだろう。
『ルナさんのことだから、きっと素敵な恋愛話とか持っているんじゃないですか?』
『そんなに綺麗なのは無いですよ、本当に』
 テレビに映るルナは、中学時代と比べれば華やかさは非常に増している。それも、年齢とかそういう自然的なものではない。天性の何かが、よい方向へと働いていったのだろう。そんな彼女には地元であっても彼女なりに仕立てた架空のストーリーの方が似合う。
『そんなに人気者だったら、さぞかしロマンチックな話とかあるんじゃないですか?』
『そうですね…。お望みの綺麗な話ではないかもしれませんけど』
 純一はコーヒーカップに口をつけながら、テレビで彼女とアナウンサーが質問のやり取りをするのを見ていた。
『中学の時に出会った転校生が初恋の相手でしたね。他の同級生とは、良くも悪くも距離を置いていたこともあったんですけど、その転校生にだけは、距離を置けませんでしたね。それに…』
『それに??』
『中学2年と3年の時とか、友達とバンドを組んで、学校の文化祭に出ようと計画した時にも、その背中を押してくれたのは、その転校生でしたね。それに、何かと力になってくれる、優しい存在でしたよ』
 中学の時に純一は、何かと佐奈の相談に乗ったりしていたし、それなりに仲がよかった。自分にとっては何気ない行動が、彼女にとっては支えになっていた事もあったというのは、にわかに信じがたかった。
『その彼は、よほど中学時代のルナさんに惚れてたんでしょうね』
『そんな事無いですよ。あくまで友達というだけで、恋愛感情とかは無かったんですから。勿論、ファーストキスも』
 何気ない質問に、やたらと真剣に答えるルナ。彼女の初恋話は、多少の装飾はされているけれども、ほとんどは事実であった。アナウンサーにしてみれば、もう少し派手な過去を予想していたのだろうが、彼女が話す過去は本当のセピア色の写真のようだ。この時、純一には朝風ルナではなく、仮面をかぶった石川佐奈が出ているかのように見えた。
「そういえば、純一さんが知っている佐奈さんて、どんな中学生だったの?」
「…一見地味で、普通の中学生だったよ。でも、中学2年くらいから急に目立つようになっていったな」
 いつしか、テレビには別のアイドルの歌が流れていた。
「何か、きっかけでもあったの?」
「分からない…。でも、彼女の中で何か変わったのは事実だろうね」
 テレビに目を向けながら、朝風ルナについていろいろな話をしていたとき、会社の敷地内に車が入ってくるような音が聞こえてきた。そのうちに車の音は止んだが、遠くへ走り去っていったという雰囲気ではない。恐らく、敷地内の駐車場に車を止めたのだろう。
「…この時間に、誰か用なのかな?」
 その時、会社の電話が鳴った。外線ではなく、玄関に置いてある内線用の電話からかかっているようだった。
「青葉台交通本社、受付でございます」
『…朝風ルナです。仕事帰りに立ち寄ったんですけど』
「ちょうど、仕事が終わったので3人で休憩していたところなんです。今、ドアを開けますね」
 電話を取った高橋が、通話を終えて受話器を置くと、玄関の方へと歩いていった。その様子を向かいに座っている松本が見ていた。
「お客さんみたいだな」
「…でも、普通のお客さんではなさそうだぞ」
 松本に口打ちされて玄関の方を見ると、高橋がドアを開けて誰かと話をしている。それも、客というよりは友人あたりになるのか、身近な人に話しかけているようだった。
「仕事帰りですか。やっぱり、大変なんですね」
「平気だけどね。もう何年かしら…」
「外で長話もなんですから、中へどうぞ。温かいコーヒーでも淹れますよ」
「…そうさせてもらおうかな」
「ちょうど私たちも仕事が片付いたので、一息つけていたところだったんです」
 高橋は突然の来客を快く招き入れると、純一の席の隣にある席を客に勧めた。その客は純一らに気づいて軽く一礼すると、純一らが座る席の方へ近づいてきた。
「純一、フィアンセが来たじゃん」
「だから…。まだフィアンセじゃないって」
 最終便の営業も終わったバス会社の事務所に、まさか朝風ルナが訪ねてくるとは、予想だにしていなかった。もしかしたら来るかもしれないという予感はしたが、本当に来るとは…。
「コーヒーと紅茶がありますけど、ルナさんはどっちがいいですか?」
「紅茶でお願いします」
 高橋が給湯室へ入るところを見届けると、ルナは純一の隣に座った。
「仕事帰りで時間が空いていたから、来ちゃいました」
「電話してくれればよかったのに。急に来られたら、驚くよ」
「サプライズよ。電話して普通に現れても面白くないじゃない」
  高橋が紅茶を淹れて持ってきて、それを彼女へ手渡すと、堰を切ったかのように笑い出した。
「何かおかしいこと、言った?」
「フフッ…。そんな事を考えていたルナさんを、想像してたらおかしくなっちゃって」
 彼女が仕事を終えて、テレビ局からここまで来る間に、何気ないサプライズを企てながら、愛車のスカイラインR33のハンドルを握る姿を、きっと想像したのだろう。
「やっぱり、人気アイドル『朝風ルナ』の考えることは、私たちと結構同じなんですね」
「そりゃ、そうよ。私だって、元を返せば普通の人間だもの」
 高橋が座っていた席へと戻ると、ルナは紅茶のカップを一度テーブルの上に置き、手に持っていたバッグからポスターを出しながら話し始めた。
「この前に出したラストアルバムが評判だったみたいで、またシングル出すことになっちゃってさ」
 半年くらい前に、朝風ルナのラストリリースのCDとしてアルバムが発売された。そのCDの中に収録された作品に、相澤愛美が生前に残した最後の歌詞を元に編曲された歌も入ったはずだ。
「アルバムに収録できなかった新譜があってね。それを最後のシングルCDとして出して…。多分、終わりだと思う」
「やっぱり、握手会とかもやるんだ」
「まだ、日にちと場所は決まっていないけど、やることは決まっているみたいね」
 正真正銘の最後のリリースとなるCDが、近日中に発売されることが決まっている事は知っていた。しかしながら、引退と騒いだ昨年の騒ぎはいったいなんだったのだろうか。
「あのアルバムで、北沢とかは諦めていたもんな。もう握手とか、サインを貰うこともできないってさ」
「本当に、北沢さんたちが知ったら、きっと喜ぶでしょうね」
「喜ぶにも何も、今のこの状況を知った時点で驚くだろう。憧れのアイドルが、自分らの勤め先に来たってさ」
「それもそうだな」
 このことを知った北沢らがどういう行動をとるかを思い浮かべたら、純一は思わず吹き出してしまった。
「実はね。頼みたいことがあるんだけど…。明日、バスを持ってくるんだけど、ついてきてくれない?」
「…バスを持ってくる?」
「神崎バス工業さんで、いい車両に出会ったのよ。私も大型免許を取ったし、練習する意味もこめて買ったんだけど、こっちまで持ってくるのに少し不安でさ…」
 朝風ルナは、既に大型自動車の運転免許を持っている。純一は、既に免許の事を知っているために驚きはしなかったが、松本と高橋はまだ知らなかった。
「ルナさんて… 大型免許を持ってたの??」
「ええ。約3ヶ月くらい前かな。あれきり、まだ運転したことは無いけどね」
「それにしても急に…。俺は、明日の朝に仕事が終わるから、持ってくるのはそれからかな」
 純一は既に、ルナが買ったバスについては、ある程度の見当がついていた。半年前に、自分が引き取った旧2433号の修理をしてもらった後、定期点検のために行った2ヶ月くらい前、奥の方に置いてある観光バスを一目見ていた。先週辺りに見に行った時、その車両には『売約済』の札がかかっており、なにやらカラーリングも変わっていた。
 
 それに、その工場に勤めている友人から話を聞いているので、ほぼ確実にあのバスだろうと思っていた。
「このバス、買い手ついたのか」
「ああ。倒産した観光バス会社から買い取ってきて2ヶ月くらいか。引き取り手は無いと思ったけど、まさか個人で買い手がくるとは」
「個人か。でも、業者とかの送迎車とかそう言うのじゃない?」
「…本当に個人なんだよ。それが女性だったから驚いた」
「まさかさ…。買い手の名義が『石川 佐奈』になってなかったか?」
「…よく、知っているな」
「やっぱりそうか」
 取り替えた古いシートカバーを持って車内から出てきた高倉を呼び止めて、リニューアル作業が進められている、その観光バスの事を聞いていた。

「買ったのってさ、大型観光バスじゃない?」
「そうそう。でも、よく分かったね」
「その中古バス屋に知り合いがいてな。いろいろと教えてくれたんだよ」
「やっぱり、お見通しだったのね。サプライズになるかと思ったのに」
「うちはバス屋さんだからさ。そういうのでは、あまり驚かないよ」
「それにさ。純一社長は、自分のバスを持っているしな」
「えっ? そうなの??」
 青葉台交通の本社の向かい側に、純一は自分のバスを止める駐車場を構え、半年前に東海電気鉄道から廃車された路線バス2433号を、神崎バス工業で修理してもらった後に納車、家族の一員として迎え入れた。とりあえず自分の休みとなる一週間に一度くらいは、必ず動かしていた。
「ほぼ入社当初から、使っていた古い路線バスさ。東海電気鉄道には偽の証拠作って隠蔽して、あの車両を工場で直してもらったらしくてな。そこまでした割には、あまり乗っていないみたいだけど」
「仕方ないじゃないか。ここのところ、仕事が詰まっていたんだし」
 松本に指摘され、とりあえず仕事を言い訳にした。普段乗っているスカイラインの代わりに、あのバスに乗るなりすれば、それなりに乗る時間はあるのだ。しかし、仕事の前後では、あまり乗る気にはならない。
「仕事を理由にするんだったら、その2433号を緑ナンバーにしたらどうだ? 仕事上、都合よく乗れるだろうよ」
「松本…。お前も、大胆なことを言うな…」
「それに、ここは2433号を廃車した、東海電気鉄道青葉台営業所じゃない。お前が最高責任者の、青葉台交通じゃないか。会社が違うなら、やつらは文句は言えないだろう」
「それもそうだけどな…」
 純一と松本が2433号の話に夢中になっていたとき、ルナはちょうど向かいに座っていた、高橋に話しかけた。
「もし、一度だけ『DAシスターズ』を再結成するといわれたら、香織さんは参加する??」
「…どうかな。解散して、もう何年も経っているし…」
 朝風ルナと高橋香織の共通点…それは、数年前に解散したアイドルグループ『DAシスターズ』の元メンバーであることだろう。今の高橋(アイドルとして活躍していた当時の芸名は、美倉マナだったが…)は、それを忘れようとしていたし、かつてファンだった純一や松本も、何ヶ月か前に、あることをきっかけに高橋の口から聞くまで、思い出の彼方に忘れ去られていた。でも、どうしてルナのほうから急に『DAシスターズ』の話が出たのだろうか。
「でも、どうしたんですか?? 急にDAシスターズの名前なんか出して…」
「いや…ただ、思い出しただけだから。何のかんの言っても、私はDAシスターズ続けたかった方だったし…。解散した時は残念だったな」
 意味深なことを言い残すと、ルナは帰っていった。
「DAシスターズか…。センターポジションだったのって私じゃないし…」
「でも、本当にDAシスターズの再結成とかあるのかな??」
「…それは嘗てのメンバーと、事務所が決めることよ」
 そのうちに、高橋が帰り支度をして事務所から出て行った。
 しかし、それから間もなくして、彼女が慌てたように戻ってきた。
「どうしよう…。エンジンかかんないよ」
「とりあえず、原因を調べないとな…」
 3人は外へ出ると、故障した高橋の車を駐車していた場所から灯りの下へ動かした。そして、純一はボンネットを開けさせると、原因を調べた。
「…バッテリーが上がったわけでもなさそうだし…。修理屋頼んだほうがいいかな」
「どうしよう…。車が無いと帰れないよ」
「じゃあ、俺が送っていこうか。明日、どうせ俺は出勤だし、迎えに行けばいいだろう」
「そうしてくれる?」
 帰り支度をした松本が自分の車を出してくると、高橋はその助手席に乗って会社を後にした。
一人になった純一は、高橋の車にカギをかけると、自分の車を隣に移動させた。故障しているとはいえ、車上荒らしとかに壊されてしまってはもともこうもない。それに、隣に別の車を置いたほうが、いろいろな面でいいのかもしれないと思っていたのだ。
 会社の事務所に戻った後、高橋の車のことを知り合いの修理工場へと電話した。そして、窓の戸締りをすると、仮眠室へと入って眠りに就くことにした。
 しかし、なかなか眠れずに、窓から見える星空を眺めていた。
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