モドル | ススム | モクジ

● 時のメロディ番外編『最後のコンサート』 --- 14,最後のコンサート(5) ●

「今夜のコンサート、お疲れ様でした!」
 控え室では、コンサートに出演した4人と何人かのスタッフで、小さな打ち上げが行われていた。
「久しぶりに、この衣装着たよ。やっぱり、自分はアイドルだったって、そういう気持ちになるわ」
「DAシスターズが解散してから、何年も経つもの。みんながそれぞれ違う道へと行ってさ」
 神本さくら(旧名:音羽レナ)と北月優依(旧名:浅川ミナ)が、今日のコンサートを振り返った。
「やっぱり、ファンの声援を聞くと嬉しくなるね」
「台本で決められた演技するのも大変だけどさ。でも、ファンの声援は聞こえないのよ。こうして、ファンの声援を受けられるのって、いいよね」
「1人でステージをやるのもよかったけど、やっぱり4人の方が楽しかった」
「佐奈…」
「前のさよならコンサートの時、1人でステージに出て歌ったけど、あの時はずっと、緊張しっぱなしだったよ。でも、今回のコンサートは、3人が一緒にいてくれたから、あまり緊張も無く歌えたよ。ありがとう、出てくれて」
「どういたしまして。でも、本当に、4人でステージに上がれてよかった」
 この4人でステージに上がったのは、もう何年も昔の事だ。何らかの原因で仲違いが起き、4人の仲を修復できないまま、結局は解散の道を選び、4人それぞれの道を歩み始めた。時が流れ、いつしか仲違いのことも忘れ、ルナの芸能界引退をきっかけにはしたが、4人が再び集結する事ができた。
「それにしても、解散の理由って、何だったっけ??」
「どうだったかな…。解散の原因って、案外些細な事だったわね。解散して和解できないまま、年月だけが過ぎて…」
「いつかは、みんなで仲直りしようと思っていたけど…。あのロケと、今回のコンサートがあったから、こうして4人集まって、仲直りできてよかった」
 ジュースの入ったコップを手にしたまま、4人はDAシスターズ時代のことを振り返った。
「でも、寂しくなるね。DAシスターズ解散の時にマナが引退しちゃってさ…。今度は、ルナがいなくなっちゃうんだもん」
「大丈夫よ。芸能界からはいなくなるけど、死ぬわけじゃないんだからさ」
「そうだったね。でも、まだルナが芸能界にいるうちに、DAシスターズの同窓会が出来てよかった」
 しんみりと、さくらが言った。この前のロケの企画の話を、喫茶店に行ったときに佐奈から聞いたときは、きっと実現しないと思っていた。しかし、それが実現し、さらには、親友のさよならコンサートでは『一度だけの復活』も出来た。 
「そういえばさ、DAシスターズのDAって、何の意味だったの??」  
「ドリームアクセル。その頭文字を取って、DAシスターズって付けられてましたよね。デビュー時の私たちの目標というか、気持ちが、ユニット名になってましたね」
 さくらが唐突に聞いてきたことに、高橋が答えた。
「夢へ向かって突き進む…。結成時は、みんなそうでしたね。一日でも早く売れたいと思っていました」
 思い出話に花を咲かせているとき、佐奈の携帯電話が鳴った。
「もしもし??」
『やっと、電話に出てくれたか』
「…何の用よ?」
『月風展望台の時から、いろいろ考えたんだが…。もう一度、会って話をしてくれないか??』
「何をいまさら…」
『今、コンサートホールの入り口まで来ているんだ。立ち話だけでいい』
「それで、本当に納得するのね??」
 佐奈は電話を切ると、それをバッグに入れて手に持った。
「佐奈、どこへ??」
「少し、出てくるから。何かあったら、電話してきて」
 3人にそういうと、彼女はステージ衣装のまま、バッグを持って控え室から出て行った。

「…ルナが出て行って、もうどれくらい経つ??」
「どのくらいかな…」
 控え室に残された元DAシスターズの3人と、コンサートの関係者たちは、なかなか戻ってこないルナのことを心配していた。高橋がしきりに携帯電話を覗き込み、時間とかを気にしていた。
「そういえばさ、ルナの彼氏ってさ… 今日、来てたよね??」
「…藤本さんのこと??」
「そう。青葉台交通の社長とか言う、あの人よ。もしかしたら、あの人が電話で呼んだんじゃない??」
 さくらが急にそんなことを言ったので、高橋は「そんな事ないとは思うけど…」と返しつつ、自分の携帯電話から、純一へと電話をかけた。

『藤本さん、いまは何処に??』
 純一が高橋からの電話を受けたのは、既にコンサートホールを後に、青葉台交通の本社へと戻る途中のことだった。
「会社へ戻っている最中だよ。ちなみに、今は1人で自分の車に乗ってる」
『さっき、佐奈さんに電話をかけてきたのは、藤本さんじゃないんですか??』
「俺は、佐奈に電話はかけていない。それが、どうかしたか??」
『今から10分くらい前になるんですけど、誰かわからない人から佐奈さんに電話がかかってきて、そのままステージ衣装で、自分のかばんを持って出て行ってしまったんです。私たちは、その相手を藤本さんだと思っていたんですけど…』
「なんだか、俺にはよく分からないし、一度そっちに戻るから」
 その時、純一は嫌な予感がして、すぐさま近くのコンビニに立ち寄ると、そこで折り返してイベント会場へと戻った。

「急に電話してきたけど、佐奈に何かあったのか??」
 コンサートホールへ戻り、駐車場へと車を止めるのと同時に、関係者用の出入り口から、ステージ衣装のままの高橋が出てきた。
「あれから、佐奈からの連絡はあった??」
「全然…」
「そうか…。いったい、何処に行ったんだ?」
「電話をかけてきたのが、いったい誰なのかわかれば…」
 純一は何気にポケットから携帯電話を取り出すと、着信がないかを見た。そんな時、彼の脳裏に浮かんだのは、ある男の顔であった。
「…桜崎かもしれないな」
「考えられなくはないですけど…。でも、佐奈さんとの関係は無いと、会見で言いませんでした??」
「…普段から友達として付き合っていたことは、俺は佐奈から聞いたことがある。もし、桜崎が好意を持っていて、まだ諦めきれていないとしたら、筋は通るんだよ。佐奈に電話してきて、ここから車で連れ出したとしたら…」
「仮にそうだとしても、何処にいるの??」
「誰にも邪魔されない場所に行こうとは思うだろう…。だとしたら、車でしかいけない、あの場所しかないな」
 純一がある場所を思いつき、慌てるように車へと乗り込んだ。
「どこか分かったんですか?」
「分からないけど、思いついた場所に行ってみる」
 車に乗った純一は、大急ぎでコンサートホールを後にすると、唯一思いついた場所「月風展望台」へと向かった。
モドル | ススム | モクジ
Copyright (c) 2011 ACT All rights reserved.